※今回は、新たに当ブログの執筆を担当するU氏が、本記事の文責を負います。
「渡良瀬橋で見る夕日を あなたはとても好きだったわ」
森高千里さん作詞、1993年発売の楽曲、「渡良瀬橋」の歌い出しです。
曲の舞台となった渡良瀬橋は、栃木県足利市に実在する橋です。
実在すると知れば見たくなるのが人情というもの。
秋は空気が澄み、夕日がきれいに見えると聞きます。
関西からは少し距離がありますが、今回は渡良瀬橋周辺を旅しましょう。
"待ってて、森高さん!"
筆者との出会いは「はじめてのおつかい」
筆者がこの曲と出会ったのは、テレビ番組「はじめてのおつかい」を通してでした。(以下、筆者の記憶により番組を語ります。古い記憶ですので正確さは保証できません。)
「はじめてのおつかい」は、親が小さい子どもにハードルの高い「おつかい」をさせる番組です。一人で行動することになった子どもをカメラが追跡することで、子どもの意外な一面や逞しさ、失敗、そして成長を見ることができます。
「はじめてのおつかい」は基本的に、「おつかい」が完了すると、1本のVTRが終わります。しかし、「あれから○年」というパターンも存在します。「おつかい」に出演した子どもを数年後に再訪し、成長を見て、当時の気持ちをインタビューするコーナーです。「おつかい」VTRが流れた後、画面が白く飛び、キラキラ光り出したら「あれから○年」の確定演出です。
そのコーナーで、ある一人の「子ども」が、数年後 (十数年後?) にバンドを組んでいました。そこで歌っていたのが「渡良瀬橋」でした。
取材のラスト、「願い事一つ叶うなら あの頃に戻りたい」と歌う現在の映像を流した後、ナレーションで「では、戻してあげましょう」と受け、かつての「おつかい」時の写真に切り替えてコーナーを締めくくる。なんて激エモ演出だろう、と心動かされたことを覚えています。(当時、エモいという言葉はなかったはずですが)
そんな渡良瀬橋、最寄り駅はJR両毛線の足利駅。または、東武鉄道伊勢崎線の足利市駅です。
渡良瀬橋があるのは、足利駅から西へ1㎞ほど。歩いて10分から15分といった距離感です。足利市駅からはもう少し近く、10分ほどで着くと思います。
東海道新幹線を東京まで利用すれば、関西発でも昼頃には着くことができます。
夕暮れ時まで時間がある場合は、散策をしてみましょう。
「渡良瀬橋」の歌詞に出てくる場所を巡るのもいいですが、今回は別の場所をご紹介します。
足利駅から3駅、桐生駅まで足を延ばせば、わたらせ渓谷鐡道の乗り入れがあり、渓谷旅を楽しむことができます。渡良瀬川を満喫したい方にはおすすめです。
足利駅で散策したいという方にはこちら。足利駅を東へ行けば龍泉寺があります。お寺の本堂横に美術館が併設されています。畳の部屋に数々の逸品が展示されており、特別な空間での特別な時間を味わうことができます。今年話題となった、原田マハ著「坂上に咲く」。棟方志功を扱った小説ですが、そんな「世界のムナカタ」の作品も複数展示されています。
入館料は500円でした。駅から約1.8㎞と少し距離はありますが、筆者の足では20分もかかりませんでした。
平坦な道で歩きやすいですし、「渡良瀬橋」の2人に思いを馳せながら市街散策するのも良いですね。
さて、寄り道をしていたら日の入り時刻が迫ってきました。「秋の日は釣瓶落とし」と言いますから、しっかりと時間は確認しておきたいところです。筆者はギリギリ、予想日の入り時刻ピッタリで、なんとか渡良瀬橋に到着しました。
市街方面から川の堤防へ上った時、橙色の輝きを放つ夕日がまさに沈んで行くところでした。本当に美しかった。渡良瀬橋の近くには、渡良瀬橋歌碑が設置されており、歌詞を噛みしめながら、暮れゆく街の中に身を置くことができます。
「広い空」、
「遠くの山々」、
「夕日がきれいな街」、
まさに歌の通り。と言ってしまえば簡単ですが、この景色から歌を生み出すのにどれほどの努力があったか。筆者の想像の範疇を超えていることでしょう。
"来てよかったよ、森高さん!"
「はじめてのおつかい」から十数年後、筆者は「渡良瀬橋」に出会い直しました。それは、ハンバートハンバートさんによるカバーを聞いた時でした。
「広い空と遠くの山々 二人で歩いた街 夕日がきれいな街」
というフレーズに強く惹かれたのでした。当時生活していた街も空がきれいだった。そんな共通点から、この曲を好きになったのかもしれません。それ以来、旅先の街、移動中の車窓などで「渡良瀬橋」が脳内再生されることが多くあります。
日本は環太平洋造山帯に属する山国です。「広い空と遠くの山々」は、広く全国各地に見られる景色なのかもしれません。ぼんやりと車窓を眺めていると、遠くに山並みが見える。そんな風景をキーとして、この曲は旅に寄り添うのでしょう。
また、旅には街を知り、街を好きになる作業が含まれます。楽曲「渡良瀬橋」は、人を好きになり、街を好きになる様子が描かれる歌です。星野道夫は「旅をする木」の中で、「人と出会い、その人間を好きになればなるほど、風景は広がりと深さをもってきます」と言いました。単なる風景だけでなく、土地への愛着という精神的な共通点からも、「渡良瀬橋」は旅心を掴んで離さないのかもしれません。
「渡良瀬橋」は、歌い出しと曲の最後に夕景を持ってくることや、未練に執着する主人公に夕日のイメージを重ねるなど、「森高文学」と言っても過言でないほどの完成度を誇ります (個人的な評価です)。が、それを語ると本来の趣旨から逸脱してしまいますね。
渡良瀬橋の夕日は、あえて写真を掲載しないことにします。ぜひ、ご自身の目で確かめていただきたい。
以上、今回は旅に寄り添う楽曲、「渡良瀬橋」と、そのモデルとなった栃木県の渡良瀬橋周辺の紹介でした。
文責:U氏
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